時は1989年(平成元年)4月から始まる物語です。
主人公、水内奈緒は高校一年生になったばかりの女の子。
中学から美術部員で、高校に上がってからも春の陽光いっぱいの校庭を歩きながら、鳥や運動部で活躍する部員たちの絵を描いています。
奈緒は一人っ子で両親からとても愛され可愛がられて育ったので、少し臆病で消極的なところのある子ですが、芯は強く正直で純粋で、三人兄弟の真ん中で育った私は人の顔色を見て自分の位置づけを決めるカメレオン的な、いわゆる八方美人な学生だったので、奈緒のこうした筋の通った生き方に心から憧れていました。
一方、奈緒の親友は、151センチで運動音痴の奈緒とは反対に、長身で美人で陸上部員の寺坂明世。
入学早々クラスの男の子に告白されたり、華やかな印象の女の子です。
明世の紹介で陸上部の一つ年上の先輩、苫谷健司を絵のモデルとして紹介された奈緒。
実は明世の想い人であるのですが、健司と奈緒は惹かれあい夏休みが明けたら付き合う事になりました。
明世の気持ちも重々知っていた奈緒。
「お互いにフェアでいこう」と誓い合ってた二人。
結局選ばれたのは奈緒で、ここでも私なら、先に健司と知り合っていたのは明世であり、明世の存在なくしては自分は健司との接点もなかった人間・・色々思うと、どれだけ健司に惹かれていても身をひいたような気がします。
自分の気持ちより、明世の気持ち、周りの友達の気持ち、要するに自分の立ち位置が危ぶまれるかもしれない事態に陥ることが怖いから。
けれども普段か弱げで優しい奈緒が、この恋に対して退くことはありませんでした。
それだけ、自分の健司に対する想いが真剣なものだから。
また、明世が健司を想う気持ちの真剣さも痛いほど解っていたから。
そして健司が自分を想ってくれる気持ちも大切にしたかったから。
いみじくも健司の親友である伊勢さんが言います。
「俺はあの子(奈緒)は(明世を気遣って)付き合いはやめようって言い出すかと思ってた・・」と。
そう、私も漫画を読み進めていくうち、そういったストーリー展開が挟まれるかと思えたのです。
そういったありきたりの、言ってみればチープな発想の内容ではないところに、一本揺るぎない筋の通った魅力を兼ねそろえているところに、この物語の深さを感じて、40代になった今でも青春時代の思い出と共に蘇ってくる大切な漫画なのです。
もちろん結婚して実家から離れる時にも持参しましたし、今では高校生となった娘も読んでいます。
「ママたちの時代の高校生って純だったんだねぇー」と笑いながら。
「ピュアと言ってちょうだい」・・そんなやりとりができるようになった娘、正に奈緒と同い年になった娘にも感慨深いものを感じるのです。