まず、イノサンの主人公であるシャルル・アンリ・サンソンは処刑人の一族として生を受けました。
小さい頃から望まぬ恐ろしい教育を受け、差別されて学校を追われるといった理不尽な想いを沢山してきたのです。
次に、そんな少年が招かれたパーティーで始めて友達を作る事に成功しました。
しかし、その奇妙な会場で体調を崩した父の代わりにライオンを殺せなかった所為で、友達を無惨に死なせてしまう事になるのです。
その友達は養子で奴隷売買の際にもらわれて来た美少年でした。
上官の命令に背いた為に殺されてしまいそうになった父親によって、無実の罪を着せられて処刑台に送られてしまいました。
自分が命令通りに動物の命を断たなかったばかりに、物凄く仲の良かった親友の命を奪わなければならなくなったのです。
そして、処刑人であると言う現実を思い知らされたシャルル・アンリ・サンソンは、激しいショックを受け、亡くなる前の親友に会いに行きました。
しかし、親友にお前の所為で僕は死ななければならないんだと罵られ、呆然と立ちすくすしかなかったのです。
彼の方が現実を受け止め、やるせない世界の中で大人になっていたのかもしれません。
死ぬ直前まで暴行を受け、歯が抜け落ち、美しい顔や体に傷ができていました。
正論とは本当に言っていい場所を選ぶべき言葉だと考えさせられる描写だと思います。
また、例え正義感であっても、自分勝手な勇気は大切な人を貶める事に繋がるのだと学びました。
相手を見て、物を言わなければならないと感じました。
どう見ても性格の悪そうな彼の父親は、息子が死刑になるのを見ても平然としていました。
主人公は悲しみの中、親友に刃を向けましたが、一思いに殺してあげる事もできず、大好きな彼を苦しませながら留目を刺したのです。
これが、国王ルイ16世を断頭台の露にしたシャルル・アンリ・サンソンによる初めての処刑になりました。
それから、その痛ましい出来事をきっかけに主人公は、覚悟を決めました。
もう自分の弱さの所為で誰も失いたくないと言う想いと伴にもう2度と苦しめて殺してしまった親友のような目に遭わせる被害者を出さないようにと腕を磨いたのです。
この瞬間、主人公は強くなりました。
自分のやってしまった取り返しのつかない後悔と、死刑に対する避難的な気持ちがより一層高まったのです。
一生涯忘れられないような心の傷を抱えながら、様々な人間の死刑に立ち会い、妹のマリーと考え方の違いで仲違いしながら恋愛や結婚、自分の子供が出来た時の躾等を苦悩しながら主人公なりにやってのけるストーリーになっています。
最後に、国王ルイ16世との関わりや周囲の処刑人への偏見、それに対する負けない弁論が描かれているシーンもあり、面白いです。
主人公自体の美貌も相俟って、男性に気に入られたり、女装をしてその場を終息させる場面もあります。
また、フランス革命前の貴族と平民の暮らしの差や考え方の違い等もわかりやすく書かれているので、勉強になります。
生々しい殺人現場のような描写もありますが、その当時の社会情勢やどうにもならなかった事が伝わってくるので読んだ後の怖さはあまり感じません。
癖になって、読み返してしまいます。
絵が綺麗なので、見ていて癒されます。